【ボランティア白書】20代から40代の社会に不満を持っている層の巻き込みがカギ

永井 美佳さん

社会福祉法人大阪ボランティア協会 常務理事・事務局長

■アクションあっての気づきや学び

 私は大学一年生の時にアメリカに語学研修に行く機会があり、海外の人と交流することに関心を持っていました。そして青年海外協力隊のポスターがたまたま目に入り、説明会にも行ったのですが、20歳以上じゃないとダメでした。国内で何かできないか探していましたところに、大阪ボランティア協会が発行する夏のボランティア活動を紹介している冊子を大学の学生課で偶然見たんです。

 もともとボランティアをやったこともなく、社会派というわけでもなかったのですが、いくつか活動に申し込んでみました。近くの福祉施設とかの活動が全部落ちて、島根の山間部で、今でいう「援農」のような活動をする特別プログラムに参加しました。

 そこではタイでスタディツアーを企画している人をはじめ、いろんな面白い人たちと出会い、「こんな世界があるんだ」と目から鱗が落ちる体験をしたんです。今までニュースとしてだけ見ていた情報が、生きた言葉として入ってきました。

 その後も学生時代にいろいろな企画に携わらせていただいて、大学を卒業した後は1994年のIAVE(ボランティア活動推進国際協議会)の東京大会ではボランティアのコーディネートの役割もさせていただきました。東京大会の後、オーストラリアにワーキングホリデーでボランティア推進機関に行く準備をしているときに阪神・淡路大震災が起きました。それで関西に戻り、西宮市や芦屋市、神戸市内で復旧活動に参加し、そのまま大阪ボランティア協会の職員になりました。

 その後もずっとボランティア推進にかかわっていますが、今も知らない世界がたくさんあります。多くの人に参加してもらいたいということで、「つなぎ役」「伝え役」としてこれまでやってきました。

 

■次の世代の巻き込みが課題

 先日大阪都構想(大阪市の廃止)に関する住民投票が行われました。

 そこで賛成したのは20代から40代が多く、仕事においても子育てにおいても社会の中核ともいえる世代だったわけです。彼らは、閉塞感を持っていて、「現状を何か変えたい」「このままじゃいけない」というエネルギーが強かったと思います。

 市民活動をしている人たちは都構想には反対の人が多いのも事実なのですが、何か社会を変えたいと考えている彼らを巻き込めていないと私は感じました。そのエネルギーが投票だけでしか現れないのはもったいないです。

 実際、ボランティア活動や市民活動の担い手の高齢化が指摘されています。 ボランティア団体・市民団体には、役員の任期はありますが、定年はありません。長年活動してきた人たちは活動や組織に愛着もあるので、なかなかポストが空かないというのが現状です。

 大阪ボランティア協会でも、約110人のボランティアがコンスタントに活動していますが、40代以上が多いです。20代から30代の人たちは数も少なく、活動のキャリアも浅いため、組織の中核の議論に十分にかかわれていません。もちろんその年代は転職や転勤も多いので、定着率が高くないということもあります。

 古くからかかわってきた人たちを排除するものではありませんが、彼らには別のポストを準備して、新たな役割にエネルギーを注いでもらって、次の後継者を育てていくことが必要です。地域に講演に行くと、後継問題や引き継ぎに関する相談が多いですね。ただ、前の世代としては自分たちがやっていたのと同じようにやって欲しいと思いやすいのですが、それだと難しいです。どこまで自由裁量を与えられるかが一つのポイントになります。

 

■提言性や運動性が今こそ必要!

 世界的には自国ファーストの風潮が強くなっており、個人的には余裕がなく漠然とした将来の不安を抱えていたり、利他の精神が失われたりしています。これらはボランティアを推進したり、ソーシャルセクターを育てるうえで障壁 となります。

 日本は他の国と比較すれば市民社会スペース、つまり市民社会の自由な言論・活動のための社会空間は確保されている方ですが、同調圧力は強めの国なので何かに圧迫されている感じが否めません。誰もが「あかんことはあかん」と言える方がよいのですが、時と場を選ばないと言いにくい雰囲気がまん延している。「あかん」と反応する感度も鈍っているのではないでしょうか。もっと怒ってもいいし、言うべきことは言うような態度でいたいですね。

 確かに20年間でボランティアの間口は広がりましたが、「課題を発見し、発信する力は落ちているのではないか」「市民としての発言力やパワーが落ちているのではないか」と危惧しています。いろいろなところに「忖度」していると感じる場面もあります。

 市民社会スペースを縮小させず、市民ならではのパワーを発揮し続けるためには、今こそ知恵の出しあいや連帯が必要とされているのではないでしょうか。そのパワーの中核にあるのが自発・自主・任意・自由意志といったボランタリズムの精神だと思います。ボランタリズムの精神に火をつけ、行動する人を増やすこと、そこはあきらめたくはないですね。