【ボランティア白書】安全性が求められる世の中で、ボランティアの「現場感」をどう持ってもらうかがカギ

並木 麻衣 さん

特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(JVC)

東京事務所 広報/ファンドレイジンググループマネージャー

 

 

■支援に専門性・安全性が強く求められるようになった

 当会は1980年に「日本国際奉仕センター」としてスタートしました。ベトナム戦争やカンボジアのポルポト派による虐殺などのインドシナ半島の危機で難民キャンプができるようになり、そこでのボランティアに集まった人たちが、活動を効果的に進めるために設立されました。

 2000年頃までは海外でのボランティアは来るもの拒まずで、どんな方も受け入れ可能でした。1日で終わる人もいれば、半年いる人もいる。ヒッピーのような人もいれば、技術を持っている人もいる。しかし、2004年のイラクでの日本人ボランティア人質事件を皮切りに、海外で活動するボランティアや支援者が事件に巻き込まれるたびに、海外ボランティアへの社会の風当たりは強くなってきました。

 その結果、これまで以上に支援に専門性が求められたり、安全性が問われるようになってきたりしたのがこの20年でした。気軽にボランティアに「現地へどうぞ」とは言いづらい雰囲気になっています。そこには一定の責任が求められるのが当たり前になりました。受け入れるのであれば、保険、ビザ、滞在先など、必要なことは受け入れ団体が全部お膳立てするのが当然と考えられるようになってきました。

 

■ボランティアに現場感を持ってもらうのが難しい

 日本人が巻き込まれた海外での事件によって、外務省による渡航制限も強くなり、かなり現地に行きにくくなりました。支援ニーズの高い国で入国できないというケースが多くなっています。JVCにお願いすれば海外に簡単に行けますか、とよく聞かれますが、そんな簡単にできない風潮になっています。

 本来、ボランティアは現場での活動が原体験としてあって、それが原動力になってその後も活動や支援をつづけるという人が多いように思います。ですから、ボランティアの人たちに、いかに現地へ関わっているんだという感覚を持ってもらうかが課題になっています。

 

■多様な関わり方ができる国内のボランティア活動

 国際協力といっても、全て海外の活動ではなく、日本国内でも多くの活動や作業を行っています。約1000人の会員に対して3か月に1回会報誌を送ったり、お手紙を送ったり、カレンダーを梱包する作業など、様々な作業が必要です。団体の立ち上げ時から、事務作業はボランティアでやってきました。新型コロナウイルスの影響で最近は事務所に大人数が集まって作業することは難しくなっていますが、それでも作業自体がなくなるわけではありません。

 また、コロナの感染が広がる前は、イベントを月5回くらい開催していました。もっとたくさんの人に海外の問題を知ってもらうことで構造を変えたい、社会に注意喚起をしていきたいと考えています。それらの運営も基本的にボランティアが行っていました。

 さらに、仕事終わりの19時くらいから事務所に集まって、特定の地域の事業のためにファンドレイジングをしたり、勉強会をやったりといった、自発的に動く人の集まりもあります。今はアフリカ、パレスチナ、アフガン、タイ、ラオスのグループがあります。

 このように、国内でも様々なボランティアの関わり方があります。海外の問題のために何かしたい、という思いを持った人にとって、居心地が良いコミュニティになっていると思います。NGOというより運動体ですね。ここには市民活動の場があります。

国際協力はプロフェッショナル化がかなり進んでいますが、市民との橋渡しというか、「国際協力をプロだけのものにしたくない」という思いも同時にあります。プロじゃないからこそ気付くこと、変えられることがあると思っていますから。

 

■ネガティブだけではない新型コロナの影響

 新型コロナによってリアルのイベントが休止になったり、事務所へ一度に入れる人数が制限されたりというネガティブな影響もありましたが、一方で「何かしたい」という問合せは増えました。家に居る時間が長くなり、社会とつながりがなくなったために何かしたいという人が一定数いるようです。物品寄付も増えました。掃除をする人が増えたからだと思います。これも一つのボランティアと言えますね。社会不安があった時、社会と関わりたいという思いを持つ人が出てくるようですね。災害のたびに、何かできないかという問合せも来ますし。

 イベントはオンラインで月1回開催しています。回数は減りましたが、リアルでやっていた時より参加者数が増えました。オンラインのおかげで地方の人も参加できるようになり、新たなニーズを拾えるようになったのは良い点です。ただ、事務所での活動に参加することは難しいため、オンラインイベントに参加してもらった地方の方が、次の行動を起こすための橋渡しが課題になっています。

 

■国際協力の“現場感”をいかに感じ取ってもらうかが課題

 現場感をいかにボランティアの方々に伝えて、実感を伴った国際協力ボランティアになれるかが、目下の大きな課題です。事務ボランティアをやりながら、国際協力をやっているんだという実感を持ってもらうのは難しいことですから。国際協力に対する強い思いを持っている人を取りこぼしているかもしれません。

 また、企業で働いている方へのアプロ―チも課題です。本当はボランティアのニーズがあるのに、できていない人がいると思います。自ら来る方にはボランティアになってもらえますが、こちらから打って出ていくことができていません。もっと関わっていかないと、と思っています。

 

■行動する人を増やすために、ボランティアをもっと身近に

 NGOは究極的には無くなるのが至上命題です。ですが、社会課題がなくならないと私たちも無くなることはできません。社会、政治が変わらないと。そのためには、もっと多くの人がアクションを起こしていくことが必要です。

 国際協力に関わる人を増やすには、まずきっかけが大事です。ボランティアや何かのアクションに参加することで、一つ目のハードルを超えられます。そしてだんだんステップを上がっていって、寄付や自分なりの行動・活動につながっていきます。企業の人にももっと来てほしいですし。

 具体的な戦略は今検討中ですが、簡単なステップを用意して、身近に感じてもらう工夫をしないといけないと思っています。ボランティアだけでなく、いろんなメニューを用意できればなと。システマチックに階段を登ってもらえるようにしたいと思っています。