【ボランティア白書】SDGs達成におけるボランティアリズムの重要性

池田 祥規さん

国連ボランティア計画パートナーシップ開発担当官

■ボランティア動員とアドボカシー

 国連ボランティア計画(UNV)は1970年に設立され、ドイツのボンに本部があります。

UNVは、国連システムのためのボランティア動員と、世界の開発におけるボランティア活動の重要性の提唱という2つの使命のもとに活動しています。

 

 設立当初は、活動国の平和と開発を支援するため、国連システムに資格と意欲のあるボランティアを提供することを任務としていました。約50年の間に、刻々と変化する地球環境とボランティア活動の価値に対する認識の高まりを背景に、UNVの任務範囲は拡大してきました。今日では、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための手段としてのボランティア活動、SDGsを地域化して達成するという観点から国やセクターの開発計画にボランティア活動を統合することなどが重要視されています。

 

 また、活動の焦点も長年にわたる開発パラダイムの変化に伴い、国や地域独自の能力を強化することで達成される持続可能で、革新的な解決策を推進する方向へシフトしました。同様に、繰り返される自然災害や紛争にさらされているコミュニティの脆弱性が高まっているため、世界的に、より強固な人道的介入が求められています。こうした傾向は、UNVのボランティア動員や、2030アジェンダの実施の横断的手段としてのボランティア活動、SDGsや2030アジェンダにボランティア活動をより効果的に統合する方法についての証拠や知識を集めるアプローチに反映されています。

 

 2001年に約5,000人だった国連ボランティアの数は、2020年には9,400人以上になりました。うち半数以上が女性であり、また自国で活動する国連ボランティアが56%を占めています。

 

 また、国連総会を含む主要なグローバル開発プロセスにおいては、さまざまな声明、報告書、アドボカシーを通じて、UNVはボランティア活動の国際的な認知を確保することに貢献しました。例えば、以下のような事例があります。

 

  • ボランティア国際年 (IYV) (2001年)
  • ボランティア国際年10周年(IYV+10)(2011年)。UNVは、ボランティア活動と市民参加をめぐって、幅広いステークホルダーと国連パートナーを動員し、決議A/Res/66/67を導き出しました。
  • 日本とブラジルが共同で主導した国連総会決議「今後10年間でのボランティア活動の統合」(2012年)、「平和と開発におけるボランティア活動の統合:今後10年およびその先を見据えた行動計画」(2015年)、「持続可能な開発に向けた2030アジェンダのためのボランティア活動」(2018年)、また2021年には新たな決議が予定されています。
  • 世界技術会議(Global Technical Meeting, GTM)(2020年)。 2020年7月13日から16日にかけて、「Reimagining volunteerism for the 2030 Agenda(2030アジェンダのためのボランティア活動の再構築)」に関するグローバル・テクニカル・ミーティングがオンラインで開催されました。会議の主な成果文書「A Call-to-Action on Volunteering in the Decade of Action」では、ボランティア活動を2030アジェンダに合わせること、SDGsの実現に向けて世界のボランティアコミュニティの関与と共通の連帯を深めることを呼びかけています。

 また、UNVは3年に一度、「世界ボランティア白書(State of the World's Volunteerism Report)」を発行しており、2021年12月に最新版が発行される予定です。今回は「ボランティアリズムとソーシャル・コントラクト(社会契約)」をテーマにしており、特にCOVID-19の大流行を受けて、そうした流れがボランティア活動の新たなモデル、また、21世紀のニーズに直面し適応する政府と人々の役割や関係にどのような影響を与えるのか等に焦点を当てる予定です。 

 

■日本のイニシアティブによる「ボランティア国際年」の制定

 UNVは1989年から日本で活動を開始しました。その中で1993年、カンボジアで選挙監視をしていた国連ボランティアの中田厚仁さんが殺害されるという痛ましい出来事がありました。厚仁さんの父親の中田武仁氏は、厚仁さんの遺志を継ぐため、第一線のビジネスマンとしてのキャリアを辞し、自らも国際平和のためのボランティアとして活動を開始されました。1993年6月には国連ボランティア名誉大使に着任され、精力的に活動されていました。1995年の阪神淡路大震災の時も現地に入られ、ボランティア活動の重要性を改めて認識されたそうです。そして、1997年に「ボランティア国際年(2001年)」の宣言のための発起人の一人として多くのインスピレーションを与えてくださいました。

 

 日本のボランタリーセクターに注目しますと、2011年の東日本大震災では、100万人以上のボランティアが緊急・復興支援に参加したと言われています。当該セクターが蓄積してきたボランティアマネジメントのノウハウやスキルを活かし、80以上のコーディネーションセンターが立ち上がり、海外からのボランティア受け入れもサポートしていきました。日本のボランタリーセクターの歩みは災害の歴史とも密接にかかわっていると言えるでしょう。

 

 UNVは現在、日本において、日本信託基金、グローバルヘルス・ボランティアイニシアチブ、平和構築人材育成事業などを通じて外務省と連携しており、また、JICAや関西学院大学等の日本の大学ともパートナーシップを構築しています。これまで1,000人以上の日本人を国連ボランティアとして派遣しています。

 

■SDGs達成に向けてのボランティアリズムの貢献

 2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されたことを受けて、国連総会は決議「平和と開発におけるボランティア活動の統合:今後10年およびその先を見据えた行動計画 (Plan of Action, POA)」(A/RES/70/129)を採択し、「UNVと国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)などの他の組織が、持続可能な開発のための2030アジェンダに関するボランティアの関与と貢献をさらに強化するために、2020年に世界技術会議(GTM2020)を共同で開催すること」への協力を呼びかけました。GTM2020は、「Reimagining volunteerism for the 2030 Agenda(2030アジェンダのためのボランティア活動の再構築)」をテーマに、2020年の持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)の特別イベントとして開催されました。

 

 そうした流れの中、各国がSDGsの達成状況を評価する「自発的国家レビュー(VNR)」でも、ボランティア活動のポジティブな貢献を言及するものが増えてきています。例えば2017年はボランティア活動に言及したVNRは18%でしたが、2021年には63%まで増加しました。日本政府が2021年に発行したVNRでもボランティア活動についての言及が含まれています。VNR全体では、SDGsの17項目のうち、特にゴール3(健康)、ゴール4(教育)、ゴール11(持続可能なまちづくり)、ゴール16(不平等の解消)、ゴール17(パートナーシップ)などの分野でボランティアの重要性が強調されています。

 

 また、UNVが2020年初頭に24,000人を対象に行った調査によれば、90%の人がコミュニティや家族で知っている人がボランティアに助けられたと述べています。そして、30%近くがボランティアによって個人的に助けられたと回答しました。さらに、回答者の99%の人たちは、SDGs達成のためにボランティアが不可欠もしくは重要であると考えています(*1)。

 

 ボランティア活動には、相互扶助・サービス提供・オンラインなど様々な形態があり、そこに参加する人のバックグラウンドも多様です。その多様性こそが、ボランティア活動が社会を変革していくにあたってのリソースであるという認識、またボランティア活動は社会の広範にわたって影響力を及ぼしているといった認識はある程度共有されています。しかし、ボランティア活動の約70%が直接人と人の間で行われるインフォーマルに実施されている(組織や団体を通じて行われていない)ということもあり、そうした多様性を示す活動やその成果を定量的に測定するデータやエビデンスには改善の余地があります(*2)。 

 

 こうしたボランティアの活動をより正確に理解し、開発政策や戦略の中に統合させていくことで人々によるそうした開発アジェンダのオーナーシップを高め、誰一人取り残されることない社会の実現につながっていくものと期待しています。

 

 

*1  https://knowledge.unv.org/dataStory4/index.html 

*2  https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/The%20Scope%20and%20Scale%20SWVR2018%20final.pdf