東アフリカ地域の平和のためのボランティア―国際平和の日によせて

毎年9月21日は、国際平和デーまたは国際平和の日(International Day of Peace)。市民に苦痛をもたらす暴力、敵対行為の停止を世界の国々と人々に呼び掛けることを目的とした、国際連合で定められた記念日です。

毎年この日に、国際連合本部ビルで日本から寄贈された平和の鐘が鳴らされます。この鐘は、国連加盟国60ヶ国の子どもたちから集められた硬貨で鋳造されました。


United Nations

国際平和の日に寄せて、ワシントン大学、社会開発センターの発表した論文「東アフリカ地域の平和のためのボランティア」の研究内容の抜粋を紹介します。

論文では、ボランティア活動が地域の平和構築・維持能力にどのように寄与できるか、紛争を予防し、仲介し、軽減するために、ボランティア活動がどのように社会の中で機能しているのか、それらの具体的な例、若者の役割等も紹介されています。

 

東アフリカ地域の現状と平和のためのボランティア活動

多くの東アフリカ諸国は、民族間、世代間、政治的、宗教的な紛争に悩まされてきました。国家資源の不平等な分配、青年の失業率は、長年渡り続いている激しい紛争の永続的な誘因です。紛争により、この地域では何千人もの避難民が生まれました。何年もの戦争と地域紛争により人々に生計の手段、生存・生活・尊厳が脅かされ、病気、飢餓状況を引き起こしました。

 

多国籍企業、政府、市民社会を含む複数の主体が、潜在的な解決策を模索しています。平和構築と平和維持に重要な役割を果たしたと考えられるのは、「コミュニティ中心の持続可能な開発」または「人間中心の開発」です。「コミュニティ中心アプローチ」は、対人関係、行動、人間関係、参加型のアプローチで問題を解決しようと試みる手法です。ボランティア活動は、「コミュニティ中心」の開発介入を成功させるための中心的な役割を果たすと考えられています。

 

ボランティア活動と平和構築の関係

ボランティア活動における平和活動への有益性を考える上でポイントとなるのは、ボランティア活動がどのように社会的に異なる人たち橋渡し、社会的結束を構築することができるかという点です。

 

社会心理学では、外集団への接触が、自己統合の機会を広げ、最終的には、グループ間の差異の受容、外集団との再識別につながるという理論があります。人々が接触し、相互作用を費やす時間が長くなることで他者の誤った認識を減らし、それによってグループ間の寛容と理解を高める可能性があるとされています。

 

しかし、単に多様な人々を共通の空間に連れて行くだけでは、十分ではないことも確認されています。2007年に起きた大統領選後の暴力事件に巻き込まれた人々に対して行ったインタビューでは、ビジネス、学校、礼拝所などで、異なる民族が定期的に相互交流していたという事実にも関わらず、民族間の大きな葛藤が残っていることが報告されています。

 

接触だけでは不十分であり、共通の目的を持つことで、相互理解が高まることが説明されます。

共通の目標を持つことで、友好的な態度、相互理解を生み出す傾向があり、外集団のメンバー、彼らの生活様式、文化に対する寛容性が高まる傾向があります。

 

そのような共通目的と関心には、共同資源、水源点、家畜の牧草地、道路、市場空間、学校などの利用など、実生活に即した問題が含まれています。共通の目標が達成されない場合、たとえグループ間で接触はあっても、緊張、敵意、偏見が増加する可能性があります。

そのため、共通の社会的目標を達成するための、複数の異なるグループを巻き込んだボランティア活動は、多様な民族や社会集団を隔てる障壁を打破する可能性を秘めています。

 

ボランティアの限界とその可能性

紛争は、より大きな社会的、経済的、政治的構造によって生み出され、維持されます。

また、これらの構造は、公式的あるいは非公式的な規則・規範を永続させ、人々が紛争に巻き込まれるように促します。

一例として、2008年のケニアの選挙後暴力は、不公平な資源配分、土地問題、歴史的・植民地問題、政治的腐敗、文化的および民族的ステレオタイプなどの深刻な社会文化的および政治的であり、構造的な問題として認識されています。

 

ボランティアは、それら深刻な構造的問題に対処し、目に見える結果をもたらすことは難しいでしょう。

しかし、人を中心とした開発、それを達成するためのボランティア活動は、人々が自身の未来を決定し、共に行動することを前提にしているため、コミュニティの行動を決定する非公式的規範や態度、構造社会関係を変えることができと考えられています。

政治レベルでは、ボランティアは正式な政府制度に関連していないため、市民的かつ透明なガバナンスを促進することもあります。

一方、ボランティア活動は市民の関与が正しい方向に向いていないとき、暴力を誘発するためにも利用されることもあります。例えば、アフリカ東部での選挙では、民族と候補者との関係は密接で、かつボランティアはそれらの人たちと結託しています。これらの問題をさけるためにも、ボランティアの役割は中立でなければなりません。

 

若者のボランティアと平和構築

ボランティア活動が平和構築に貢献できる可能性があることが、社会科学の理論や実際の取り組みによって報告されていますが、特に若者のボランティア活動が平和に対して貢献する可能性が年長者と比較して高いことが報告されています。

若者はまだ考え方が固定化しておらず、変更するのが簡単であること、年長者と比較して、社会に深く根付いている偏見を取り入れる時間が短いためです。

また、比較的、若者が年長者よりも高等教育を受けていることが多く、変化に対して柔軟に対応できる傾向にあるため、ボランティア活動を含んだ平和介入の影響は、年長者以上に若者に対して見られます。

 

アフリカ南部と東部の青少年ボランティア交流モデルに関する最近の調査では、青少年ボランティア交流プログラムが多文化主義を奨励し、他の文化の人々との寛容と共感に関して、態度や価値観に積極的に影響を及ぼし、異なる民族や国籍の人々に対して深い認識を得ていることが分かりました。

 

ボランティア活動の社会における機能といくつかの事例

東アフリカ地域における、紛争と不信の種原因のひとつが政府や政治家による「差別」です。異なる価値は、多様化する社会において必然です。そのため、公的機関がその対処を誤る、また民主的な対話を行える機会を提供できなかった場合は、差別を助長することにもなります。

 

ボランティア活動は、民主的な対話、行動を促す一つの手段であり、政府の透明性や責任を担保する役割を果たします。ケニアのような多民族国家において、ボランティア活動を促進する委員会は、政府の透明性とコスモポリタンな社会における包括性を確保する際の大きな助けとなります。

Ujamma Center*のようなアドボカシーベースのプログラムにおけるボランティアの役割は、すべてのグループの声を確実に表明するのに役立ちます。

 

例として、UNDPケニアはケニアの若者省は、紛争の多いコミュニティにおける青少年の平和と紛争解決を訓練し、教育することを目的としたTuelewane Projectという若者交流プログラムを開始しました。各青少年指導者は、平和集会、地域清掃、宗教活動、地域社会のサッカー、地域社会との和解などの活動を組織し、和解のメッセージを広め、平和を促進する訓練を受けます。この交換プログラムによって若者たちは、世界観を広げ、多様性を促進し、寛容を奨励し、技術と生活技術を獲得できます。

 

「貧困は最悪の暴力である」というマハトマ・ガンジーの言葉は、貧困は暴力的な紛争の手段であるだけでなく、それ自体の終結の手段であることを示しています。資源の誤配分と資産の不公平な分配は、グループ間の紛争や階級闘争と強い相関関係があるため、最も効果的なボランティア戦略は、平和と発展にまたがる戦略であると考えられます。

そのため、ボランティア活動と雇用を結びつける若者との紛争後の再建は、インフラの再建に役立つとともに、平和と和解のより広い目標に貢献することを可能にします。

 

一例としてブルンジでは、若者が家庭、病院などの公共プロジェクトの建設に関わっています。建設作業という即時のニーズに対処するだけでなく、持続可能な平和構築プロセスの重要な要素として有益な雇用を促進しています。

 

まとめ

これまでの研究や実践から、人間を中心とした開発アプローチとしてのボランティア活動は、視野を広げ、人々が持っている暴力につながる偏見を壊すことができると考えられています。そのためボランティア活動を可能にし促進する制度的環境は、地域の平和イニシアティブに取り組んでいるボランティア活動の影響を拡大・強化させる可能性があり重要です。

例えば、紛争地域におけるボランティアの安全を確保することは、ボランティアの参加を促し、ボランティアの潜在的な貢献を増やすことができます。また、ボランティアプロジェクトの規模を拡大するための資金調達も、地域の平和活動を効果的にサポートすることを可能にするでしょう。

 

【関連リンク】

Volunteerism for Peace in East Africa

CSD Working Papers

 

Ujamma Center