【ボランティア白書】ボランティアは人類発祥からずっとあったものなので、形態は変わったとしてもなくなることはない

開澤 真一郎さん

特定非営利活動法人 NICE(日本国際ワークキャンプセンター)代表

■社会人の参加が増えた

 ワークキャンプに参加する人の属性は自体はあまり変わっていません。7~8割が学生、7割が女性、都市部の人が7~8割といった感じです。ただ平均年齢が少し上がりました。これは学生が忙しくなったのと、社会人に比較的ゆとりができたからでしょう。

 特に学生は就活に対して神経質になっていて、インターンが就職に有利ということでそちらに行く学生が増えました。ただ実際は、「インターンが就活に有利でボランティアは有利ではない」というわけではないようです。机上の小手先のスキルよりも、現場で現地の人と接した経験の方を評価する採用担当者も多いです。ただ、このことが学生やプログラムを運営している団体が認識していないことが多いですね。

 社会人が増えてきた背景には、非正規雇用が増えたということもあるでしょう。もちろん正規雇用との格差という問題はありますが、一つの企業で働き続けるという昭和的なライフコースよりも、起業やIターンも含めてもっと自由に生き方を選択する人も多いのです。

私は「アクティブ・ソーシャル・ニート」と呼んでいるのですが、東日本大震災の時も被災地に長期でかかわり続ける人が大活躍しました。学生や社会人は短期でしか現地に行けないわけですが、彼らは被災地の人たちと一緒にずっと復旧・復興を担ったのです。もちろん、今の社会にうまく適応できない人も多かったかもしれませんが、彼らは決して劣っているわけではありません。

 

■ボランティアに対する間口は明らかに広がった

 ワークキャンプに参加する人の傾向で言うと、素直な人が増えました。それは地域が求めることに対して、反発せずに活動するといういい面がある一方で、「なぜその活動をするのか」という部分を咀嚼したり、掘り下げたりしないということでもあります。いわば、生意気な人や、ガツガツした人、さらにいえばトラブルメーカーが減ったと言えるでしょう。

 それはボランティアに対する間口が広がって、それまで参加しなかったような人たちが参加するようになったからかもしれません。大学がNPOと組んでプログラムを作ることも多くなりました(NICEも20以上の大学と連携しています)。また、企業でも社員研修や新人研修にボランティアを活用するところも増えました。企業にとっては社会貢献というだけでなく、職場の雰囲気や人間関係がよくなった、社員が積極的になったという実利的なメリットもあります。

 海外で言うと、東アジアや東南アジアでボランティアが非常に盛り上がっています。訪日観光客(インバウンド)増加の流れもあって、香港や台湾から日本にボランティアに来る人の数が激増しています。ロシアでも日本文化が流行っているということもあり、ボランティア熱は高いですね。北極圏近くの村で日本から4人連れてワークキャンプに行ったときに、駅で電車を待っていたら、現地の若い人たちがやってきて、「ナルト!」「ワンピース!」と口々に言っていました。

 日本からも東南アジアに行く人は増えていますね、エスニック料理が流行ったり、LCC(格安航空会社)が普及したりしてより身近になったのも大きいです。ただ、韓国と中国は逆に減っています。これは国際関係をやはり反映しているんでしょう。

 

■拡大する市場と政府

 最近、「ボランツーリズム」という形で旅行会社も参入してきました。これらはNPOやNGOから批判も多いです。もちろん「顧客を取られる」という危機感もありますが、営利目的でこのようなプログラムを実施して、地域に対するインパクトや、実際に本当に課題解決につながっているのかという部分が軽視しているんじゃないかという本質的な問題提起もあります。

 また、政府が直接自らの運営によってプログラムを提供することで、長期ボランティアを実施していた団体がダメージを受けるという事例もあり、これは一種の「民業圧迫」ではないかといえます。EUにはESC(European Solidarity Corps)という団体がありますが、これは政府が資金を出しながらも、運用はNPOに任せるという形を取っています。

 このように政府とボランタリーセクターの適度な距離感が重要です。私としては昔、民主党政権時に提唱された「新しい公共」の理念のような市民・事業者・行政の協働が求められていると思います。当時、政府はNPOの声を聴こうという姿勢はありましたが、最近はどうなんでしょうね。

 

■ボランティアという「風」と、地域の人という「土」が風土を作る

 新型コロナウイルスの影響で、移動と宿泊を前提としたワークキャンプ業界は大きなダメージを受けています。

 NICEとしてもオンラインでの交流プログラムをやったり、国内で日本に住んでいる外国人と一緒に活動したり、感染リスクが低い長期・個人型のボランティアを強化したりと様々取り組んでいますが、なかなか大変なのは事実です。ただ私個人としては、ボランティアは人類発祥からずっとあったものなので、形態は変わったとしてもなくなることはないと楽観的に考えています。

 確かに、市場経済が拡大し、国家の管理が強まっています。ただ、人々が求める健康や幸福はお金では買えません。実際に人と人、人と自然とのつながりを経験して、実感するという場が必要なのです。

 そして、貴重な自然や文化が失われていく中でそれらを守り、再生していくボランティアが求められています。少子高齢化や過疎化で消滅の危機ある地域が多く、何もしなければ地域固有の文化や景観を継承してくことは困難です。

 石川県のある村では、廃村になったのですが、その後村を訪れる人が後を絶たず、元住民が戻ってきたというケースがあります。関西や関東から週末だけでも訪れていく中で、そこが第二の故郷のように感じている人もいます。過疎化は深刻な問題ですが、ヨソモノが入り込んで活動しやすくなるなど、逆に可能性が広がった面もあります。

 日本には「風土」という言葉があります。ボランティアという風と、地域の人という土が一緒に地域を作っていく中で、風が土になることもあるでしょう。

 私たちにとっての「大切なもの」を維持し、再生していく試みとしてのボランティアが今後ますます重要になってきます。