イギリスのNGO「ボランティア組織全国委員会(NCVO:National Council for Voluntary Organizations)」は、ボランティア活動における、家族の役割についての調査を行い、2020年に調査報告書「Family Volunteer-Family Affair?」(ファミリーボランティアは、家族ごと?)を発表しました。この報告書から、ファミリーボランティアがもたらした家族と組織への影響、そしてその分析をふまえて家族ボランティアを育成したい組織が検討すべき点について、まとめました。
ファミリーボランティアの家族への影響
プラスの側面として、まず一点目は、ボランティアに参加することにより家族内の役割とは異なる個人のアイデンティティを育む場となります。これは、参加者が定年退職などで仕事から離れた場合、あるいは産休等の理由で休職中である場合、また現在有給の仕事に就いていない主婦等において顕著です。また、個人としての充足感が、家族関係の再構築につながる等の影響がみられます。二点目は、普段の家族生活とはちょっと違うことをする楽しみを得ることができ、家族の絆を強めると同時に他者との関係を強めることにもつながります。参加者が、子どもの独立、定年退職などで家族関係に変化が生じた時に、一緒に過ごす新しい方法としてボランティア活動に参加するというケースも見られます。三点目は、機会や経験を通じて、新しいスキルを身につけ、達成感を得たり、物の見方に影響したり、特に参加した子どもたちの世界に対する認識を育むことにもつながっています。
一方で、マイナスの側面として、参加している個人や家族にストレスやプレッシャーを与えることがあります。ファミリーボランティアは、活動への参加は、家族の時間を犠牲にすることを意味しているため、参加者は家族、組織での活動の両方に強いプレッシャーを感じる傾向にあります。ボランティア活動を行わない他の家族のメンバーがボランティア活動をあまり評価していない世帯において、その傾向は顕著です。
ファミリーボランティアの受け入れ組織への影響
ファミリーボランティアが組織にもたらすプラスの側面の一点目は、ミッションの達成に貢献できることです。団体が地域社会の活性化や人々の交流の促進を主目的とする場合等ファミリーボランティアは目的を達成するための手段であると同時に、それ自体が目的である場合、組織は二重の利益を得ることができます。二点目は、ファミリーボランティアでは、組織の人的資源を増やすことに貢献し、組織は資源を比較的長く保有できます。三点目により多様なボランティア、特に子どもや幼い子どもを持つ親の参加を可能にすることで、組織内での参加の拡大につながったと考えられています。家族が一緒にボランティア活動をしていない場合、子どもがいる家族は、(扶養する)子どもがいない家族よりもボランティア活動に参加する可能性が低くなる傾向があるためです。家族ボランティアプログラムを提供することで、以前よりも多様な民族的および社会経済的背景を持つ人々を関与させることができました。より多様なボランティア、特に家族を巻き込むことで、一部の組織は家族のニーズや要望をより深く理解し、関わりたいコミュニティに適した活動を提案し、知り合いを組織に呼び込むことができました。家族によるボランティア活動は、組織が普段は関わらない人々に働きかけるのに役立っています。
一方で、マイナスの側面として、家族の一人が何らかの問題があってボランティアを辞める場合、家族全体が活動に来なくなる、あるいは家族が組織内の他の家族と密接な絆を築いている場合、かなりの数のボランティアが辞めてしまう可能性があります。組織は突如としてその得た人的資源を大幅に失うこともあり、ボランティア管理の面で潜在的な課題を生むことも認識されています。また、家族の参加が時として、他の参加者の排他性を生じさせる可能性もあります。
調査の結果を踏まえての提言
調査から、家族でのボランティア活動は、参加する家族に大きな変化をもたらすことが確認されました。楽しみの源、共通点、一緒に有意義な時間を過ごす方法、そして新しい機会、経験、スキルを得ること、また、家族間の絆を深めることができます。一方で、家族生活のストレスや緊張が増す可能性があることも示唆されました。また、意図の有無に関わらず、組織に多大な影響を及ぼす可能性があることもわかりました。組織が使命を果たし、ボランティアの募集、維持、リソースの強化を図るのに役立つ一方で、ボランティア管理者にとって課題となることがわかりました。
それらを踏まえて、ファミリーボランティアを促進し、家族や組織がボランティア活動から最大限の成果を得られるよう考える組織は、いくつかの点において、ファミリーボランティアを分析し、計画する必要があります。まず、現在どのように家族をボランティア(およびメンバー、支援者、参加者)として参加させているか、これまでどのように促進されてきたか、そしてファミリーボランティアの活動やそのあり方がどのように変化してきたのか、また組織はより積極的な促進を通じて何を達成したいかを慎重に検討し、どのようなアプローチを採用するかを検討していきます。ファミリーボランティアは、組織から認識や理解を得ぬまま、デフォルトとして存在する場合も多いため、組織内での理解を深めることが重要です。
そして、理解を深めたうえで、ボランティアをサポートすることが重要です。ボランティアへのサポートは、組織の柔軟性を求められますが、これは必ずしもコミットメントを期待せずに短期で散発的なボランティア活動に移行することを意味しているわけではなく、必要なコミットメントのレベルを具体的に示し、それを満たす方法について柔軟に対応することを意味します。また、組織のサポートとは、ボランティア活動を家族の資源に関する対立の原因とするのではなく、家族の他の役割や責任の一部、または延長として捉える方法を検討することも含まれます。例えば、ボランティア活動に親が子どもを連れてくることを許可/奨励することや、親と子ども、カップルが一緒に、またはお互いに並んでボランティア活動をすることを奨励すること等が含まれます。
一方で、ボランティアとして入った家族が一人抜けると、一緒に辞めてしまうことや、ひと家族によるボランティア活動や組織への影響や決定権が大きくなる、あるいは乗っ取りの可能性も生じることから、それらリスクに対する管理を求められます。
ボランティア組織全国委員会(NCVO:National Council for Voluntary Organizations)とは、イングランドのボランタリーおよびコミュニティ・セクターの統括団体である。NCVOは、ボランタリーおよびコミュニティ・セクターを支援し、独立した市民社会が繁栄できる環境を作るために活動している。NCVOは、17,000以上のボランタリー団体を会員としており、大規模な全国組織から、コミュニティ・グループ、ボランティア・センター、地域レベルで活動する開発援助機関まで多岐にわたる。
参考資料:Volunteering: A family affair?著:Angela Ellis Paine、Oliver Chan、Véronique Jochum、Daiga Kamerāde、Amy McGarvey、Joanna Stuart、28 September 2020
https://www.ncvo.org.uk/news-and-insights/news-index/volunteering-family-affair/
レポートの本文は以下から
https://ncvo-app-wagtail-mediaa721a567-uwkfinin077j.s3.amazonaws.com/documents/volunteering_-_a_family_affair_-_full_report_part_3.pdf